約25年前に閉店した喫茶店「ニューデート」のコロスパ ー取材vol.6
思い出がたくさん詰まった、あのレストランが閉店するー
島根県浜田市の喫茶店「ニューデート」。閉店から約25年が経過し、店主はすでに他界。その娘も他界。手元にレシピがあっても、当時の味を再現するのは難しい。
店主の娘の息子にあたる中地圭太さんと妹たちは、亡き母の「もう一度コロスパを食べたい」という思いを形にするために動きました。
依頼者の中地圭太さん(左)は3兄妹の長男。今回は次女の八木麻衣さん(右)も駆けつけてくれました。長女の小林南さんは広島在住のため不参加でしたが、復活に向けご協力いただきました。
「ニューデート」の物語、そして、復活に向けて動いた息子を追いました。
目次
地元客を虜にしていたハイカラな喫茶店
1930年ごろに創業した「ニューデート」は、島根県の旧浜田医療センター・浜田高等学校付近にありました。
当時は外食自体が珍しく、ましてやスパゲッティやサンドウィッチなどハイカラな食事ができる喫茶店は目立ち、老若男女に愛される存在でした。
圭太さん:
地元の方が日常的に使ってくださる喫茶でした。田舎町にしては駅からもアクセスしやすいし、病院や高校も近い。
通院患者さんは空き時間、学生さんは学校終わりによく来てましたね。
「ニューデート」の外観
看板メニューは「クリームコロッケミートスパゲッティ」通称「コロスパ」。ミートスパゲッティの上にクリームコロッケが乗っているところまでは想像できますが、さらに仕掛けがありました。
圭太さん:
熱々の鉄板の上にミートスパゲッテイ、半熟卵、最後にクリームコロッケを乗せます。まずミートの味にクセがあって、太めの麺と半熟卵と絡めるのが美味いんですよ。この味が珍しくて、愛されたんかな〜。
当時使用していた鉄板。ほんのりと卵が残っている…!?
圭太さん:
僕の記憶だと、グリーンピースが乗ってたんすけど。どうやったかな〜。
麻衣さん:
私は記憶ない(笑)
グリーンピースは孫への愛なのか、気まぐれなのか。
今となっては分かりませんが、マニュアル化されていないレシピに当時の温かさを感じます。
油染みのあるレシピノート
ぶっきらぼうな祖父だった
店主は中地さん兄妹のお祖父さん。
1930年ごろの創業から1997年ごろの閉店までの約67年間、一代で喫茶店を4店鋪、営んできました。
圭太さん:
祖父は、ぶっきらぼうで口数は少ないし、すぐ怒る。口を動かすなら手を動かせってタイプで。割とハンサムめだったので、家には帰らないし、ゴルフするし、借金する、ほんまくそじじいでしたね(笑)今だったらアウトです(笑)
圭太さん:
僕たちはお袋がお店を手伝っていた時に毎日のように連れてこられましたね。僕が小6から中2か中3の頃なので、今から28年ほど前ですね。
麻衣さん:
私はもっと幼かったので、お店の奥に追いやられて(笑)お店で食事をしていました。
ただ、その後ほどなくして「ニューデート」は閉店します。
圭太さん:
経済が発展していく中での顧客離れや、田舎なので、近代化していく中での人口減少などだったと聞いてますね。
閉店間際はそれなりにお客さんがいらっしゃったと思うけど、子供だったのであまり覚えてないですね。
麻衣さん:
私たちはまだ幼かったので、いつの間にか閉店した印象でしたね。そんなに何も思わなかった。
母が急逝。夢だった「コロスパ復活」が叶わなかった。復活へのアクションを起こす。
閉店を重く捉えていなかった子供時代。
しかし、母の故・昭子さんが2020年11月に他界。圭太さんの心境に変化がありました。
圭太さん:
お袋がもう一度「コロスパ」を作りたかったという思いがあったんですよね。
残っていたレシピを元に試作したり、調整したり。
急に亡くなったお袋の「再現したい」という気持ちを形にしたかったですね。
麻衣さん:
喫茶店をもう一度開きたいという感じで言ってた気がします。
「ニューデート」のようなメニューで。
圭太さん:
それができなくなってしまったので、何かしらの形でしたいなあという思いですね。
お袋にはもう一度食べてもらいたかったですね。
母の故・昭子さんが書き留めていたレシピ
そんなタイミングで圭太さんはまぼろし商店の存在を知る。
すぐに問い合わせが入り、何度か打ち合わせを重ね、レシピを継承させていただくことになりました。
約25年ぶりに「ニューデート」名物の「コロスパ」と再会
今日は、大阪市にある韓国料理店「福・ん」にて、「コロスパ」の試食会。
お母さんや叔母さんが大事に保管してくださっていたレシピや、中地さん兄妹やご家族、常連さんの記憶を元に、
まぼろし商店の料理人が事前に試作をしていました。
料理が完成し、早速お二人の元へ運ばれます。
完成したコロスパ。見た目にインパクトがあり、美味しそうです。
久しぶりの対面!さっそく写真を撮る圭太さん。
お二人:
見た目、いい感じです!
さっそく実食です。
麻衣さん:
ん〜!こんな感じ!合ってる!美味しい。
圭太さん:
あの〜、20何年ぶりに食べても、合ってるってわかる。不思議なんですよね。
めっちゃ良い感じですよ。あ〜思い出すわ。
この何十年か、これを食べたいと思っていて、
でもどこにもない。僕も作る術がなくて、料理人でもなんでもないので、わかんなかったんすよ。
鉄板までアツアツのコロスパ。
思わず笑みが溢れます。
かなり再現できているとの声をいただきました。
「スパゲッティのミートの味を少し濃くして多めに盛り付けたらいいかも!」とのアドバイスをもらったので、その後微調整し、再度実食。
無事、「食べたかった味です!」との言葉をいただきました。
まぼろし商店の料理人に味の感想を伝えるお二人
お二人は「コロスパ」というひとつの料理を囲み、子供時代やお母様との記憶に思いを馳せる。
単なる食事ではなく、中地さん一家と共に歩んできた存在とも言えるのではないでしょうか。
そんな「コロスパ」が繋いだ縁はこれだけではありませんでした。
番外編:あの元近鉄バファローズ梨田昌孝監督も常連だった。浜田の味を約50年ぶりに実食!
島根県浜田市出身の梨田さんは、浜田高等学校野球部出身。
梨田さんが通っていたのは「ニューデート」の系列店「デート」。
「コロスパ」は、「ニューデート」のみでの提供で、梨田さんはクリームコロッケなしの「ミートスパゲティ」を愛していたとのこと。
突然のお誘いにもかかわらず、試食会に駆けつけてくださいました。
梨田さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!
梨田さん:
野球部の練習終わりによく通ってましたね。お袋が働きに出てたので、お腹をすかせて家に帰ってもいつ夕飯食べれるかわからないからね。いつもミートスパゲティ。普通で2皿。お金や時間がないときは1皿でした(笑)
美味しいし、あつあつって言いながらよう食べたわ~。
鉄板ジュージューして猫舌で食べれないんだけどね(笑)
今でもステーキを食べて「ジュー」という音を聞くと、「ミートスパを食べたい!」と思い出すそうです。
梨田さん:
1番の青春時代を「デート」で過ごしたよ。ただ、女の子と行ったことはないね(笑)
もう野郎ばっかり。野郎の思い出の味。(笑)
懐かしい話に花が咲きました。
梨田さんにも「コロスパ」を食べていただきました。なんと約50年ぶり!!
梨田さん:
お腹も心もいっぱい。
1番の思い出やね。同級生と食べていたというのもあって、お袋の味を通り越したような特別な味。
1番の味だね。浜田の味。
圭太さん:
そんなこと言ってくれるんですか!めっちゃ嬉しい!
梨田さん:
ただ、盛り付けはもっと雑だったかな(笑)忙しいと卵が固かったり、スパがカチカチになってたり、干からびたようなのを、うまく自分で調合して食べていたね。上品ではなくがさつに食べてた(笑)
あの頃は活気あったよ〜本当厨房大変やったと思う。そらスパゲティとか投げてたよな(笑)
コロスパが繋いだ島根・浜田の縁
圭太さん:
全国の人たちとは言わないですけど、浜田の人たちなどより多くの人に食べてもらいたいですね。
昔のハイカラなレトロ感のあるものとして。
祖父・母が受け継いできた「コロスパ」を、また新しい形で残す。この復活を皮切りに、どのような物語が続いていくのか。中地さん兄妹のアクションは始まったばかりです。