創業60年、神田「キッチンビーバー」のメンチカツ ー 取材vol.1

ビーバー

誰にでもひとつやふたつは、思い出の味というものがある。それが、今では食べることが叶わないメニューとあれば、その味を渇望する想いはさらに強くなるものである。

「あの店のあのメニューをもう一度食べたい」。

そんな願いを叶えてくれるのが、さまざまな事情でやむなく閉店してしまった、人気店のレシピを継承する「まぼろし商店」だ。誰かの思い出の味には、隠し味に作り手の魂や店の歴史が込められている。そんな物語を添えて、あの店のあのメニューがここに復活!

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記念すべき第1回目に紹介するのは、昨年10月いっぱいで創業60年の歴史に幕を下ろした、神田紺屋町にあった洋食店「キッチンビーバー」の「メンチカツ」。

神田駅から徒歩3分ほどのオフィス街に佇むこちら。

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外の赤い庇にはレトロなタッチのビーバーのイラストが描かれていて、入店する前から昭和のにおいをプンプン放っています。

この界隈で働くサラリーマンの胃袋を支えてきた「キッチンビーバー」は、昭和35年に創業。親子二代に渡って店を切り盛りし、街に愛されてきた老舗洋食屋が昨年10月、突然お店を閉めることに。それは、何十年も通っている常連客も寝耳に水のことでした。

「去年の6月に父ちゃん(店主)が体調を崩して、救急車で運ばれて入院することになってね。でも店休むわけにもいかないから、次の日もひとりで店開けたのよ。やるっきゃねぇ! って。

でも、うちは常連が多いからみんな気づくわけよ。『あれ?マスターいないの?』って。だから『女作って逃げた』って返してさ(笑)。だって、お昼から暗い話したってしょうがないじゃん」

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気風のいい性格の名物ママだったカヅ子さん。取材時は店を明け渡す片付けの真っ最中で、かつてお客さんで賑わっていた店内が静まりかえり、どこか哀愁が漂っていた。

と、店主で夫の高木章さんが倒れてからの日々を振り返る、妻のカヅ子さん。営業中の名物だった、ママさんのべらんめぇ口調は今も健在。この懐かしさだけで、常連さんならごはん3杯はいけるかもしれません。

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「こんな白髪頭なのにテキパキ動くし、口が達者だから“神田の魔女”って呼ばれてたの。笑っちゃうよね」

それはさておき、これまでの仕込み時間では準備が間に合わず、月曜に仕入れていた肉を金曜に前倒し、休日を返上して仕込みを行っていたママさん。ところが、そんな無理は長く続きませんでした。

「今度は私が腰をやっちゃってね。圧迫骨折。ごはん炊いてスパゲティ茹でて、全部力仕事をひとりでやってたから、腰に疲労が蓄積されちゃったみたい。最初は、ちょっと休んでまた再開しようと思ってたんだよ。周りも『店続けなよ!』って言ってくれたけど、やることが多すぎて…。うちはソースから何から手作りだし、やるからには手を抜けないしね。だから『もう無理』と決断した。これで私が動けなくなったら、父ちゃんの面倒見る人いなくなっちゃうから」

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オープン当初から、メニューはほとんど変わらなかったそう。年期の入った看板も、役目を終え壁から降ろされていた。

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若かりし頃の、マスターとママ。定休日にはふたりでよくゴルフに出掛けていたそう。

結局、店を再開することなく、ママさんが入院する前日の10月30日が、60年続けてきた「キッチンビーバー」の最後の営業に。

「どこそこの会社の社長さんだとか、名前と顔はわかるけど、連絡取れない人がたくさんいる。お店を閉めることを、常連さんに伝えられなかったのが心苦しくてね…」

店はなくなっても、せめてビーバーの味は残したい。常連さんに、またこの味を届けたい。そんなママさんの想いと一緒にレシピを継承したのが、ビーバー名物のメンチカツです。

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レシピを伝授するため、久しぶりにキッチンに立つママさん。「味がちゃんと再現できるか、なんだか緊張しちゃうね」

「うちのメンチはいたってシンプル。ハンバーグのタネに衣つけて揚げればいいんでしょ? って言うヤツがいるけど、ふざけんな!っての。それやったら肉がカチンカチンになっちゃうよ。ハンバーグみたいにこねすぎちゃダメ。メンチはジューシーさが大事だから、脂を入れて、卵とつなぎは使わない。生パン粉でサクッと揚げるのがうちのこだわり」

ビーバー

これが幻のメンチカツ!外はサクサク、中は肉汁がジュワー

その名物のメンチカツが完成! 直径12cmもの大きなメンチカツは、衣がサックサクで肉汁たっぷり。粗めに切った玉ねぎのシャキシャキ感も食感にリズムが加わり、肉の旨みとのハーモニーが抜群! 初めて食べる人も、いつかどこかで食べたような懐かしい味わい。だけど、家庭じゃ出せない特別な味わい。これは誰もがみんな好きなヤツ!

「『ここのメンチ食ってみろ、うまいんだから』って、会社のエライ人がいろんな人をよく連れてきてたね。メンチカツってロマンがあるんだよ」

ん?メンチカツのロマンとは…?

「学生時代はお金がなくて芋のコロッケしか食べられなかった子がさ、ちょっと金が入るとメンチを頼むの。うちの常連さんの中にも、ペーペーの頃から通って今はおエライさんになって人が多いけど、若い時ってメンチがご馳走だったんだよね。食べ物とか音楽って思い出があるじゃない。メンチ食べると『懐かしい~』って言う人が多かったね」

ビーバー

厚みは約3cmでボリューム満点。玉ねぎと脂の甘みが口いっぱいに広がる

当時は曜日ごとにランチの内容が決まっていて、ロマンと肉汁溢れるメンチカツは火曜日に提供していたそう。昼休憩に日本橋からわざわざ食べに来る客や、出張で火曜日に来れない客が電話でメンチを取り置きして、別の曜日に食べにくる…という熱烈なメンチカツファンもいたと言います。

「『これ喰わなきゃ俺ダメになる』って言うのよ。だから『薬入ってっからね!』ってさ(笑)。シンプルだから、毎日食べても飽きない。これを食べて、ビーバーのことを思い出してくれたら嬉しいね」

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お客さんだったサーフアートの巨匠・ミーイシイさんが手がけた「キッチンビーバー」のイラスト。当時は店内に飾られていた。

味はもちろん、タバスコのような中毒性のあるママさんの塩対応(でもちゃんと愛がある)も、ビーバーへ通いたくなる魅力のひとつだったのでしょう。

ビーバーのメンチを食べたことがある人は思い出に浸りながら。はたまた、初めて食べる人はビーバーの物語に思いを馳せながら、その美味しさを堪能してみてはいかがでしょうか?

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今回、「キッチンビーバー」のメンチカツを紹介してくれた、元常連客の川端崇嗣さん。久々に再会したメンチカツを試食したご感想は?

ビーバー

「あのキッチンビーバーで食べた味が、そっくりそのまま再現されています。ありそうでないんですよ、この味。シンプルだから毎日でも食べられる。あの店の内装はなくなって、ママとの会話ももうできないけど、このメンチを食べるとあの頃の思い出が甦ってきます」

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\ 思い出のメニュー、レシピ募集中!/
ビーバーLP

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MAKUAKE

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